古い建物は損傷が激しい物と軽微な損傷物と分かれる。
(写真1)解体更地が多い地区でも築50~60年程度経ったであろう建物がいくつも残っている。
(写真2)残った建物を調査してなぜ残ったか検証できる基礎的なデータがほしい。
古くてもきちんと作っていれば地震に耐える。
闇雲に建て替えや大規模な補強が必要でもない、メンテナンスと軽微な補強で入居者の負担を抑えた対策が出来るのではないか。
実例を集め同じような集落での耐震補強対策に役立てられる印象を持つ。
比較的新しい建物の損傷は軽微な物が多い。現行法規に沿った建物はこの程度の地震に耐える印象を持てた。
対して、昭和40~50年代の木造・鉄骨構造の損傷が目立った。
(写真3)在来工法にとって構造改善の過渡期といえる時期の建物は相応の耐震補強の必要を感じる。
過渡期の建物がより多い都市部での早急な対策が必要と感じる。
土壁の損傷は目立つが、(写真4)全く無傷の倉もある。
(写真5)住宅で損傷が大きいのは土壁と筋交いを併用した建物。
筋交いを入れるため貫厚さが薄いので建物の変形に耐えられなかった例や筋交いが折れて壁を破壊している。
筋交いを入れた土壁は耐震補強が必要。倉での損傷は土壁が崩落している事例が多い。
明治時代の倉は被害が少なく昭和の倉が大きく損傷している事例あり。
また、土壁のわらがそのまま残っているような粗悪品を使っている事例あり。
(写真6)土壁は施工制度について職人の差が大きい。各研究機関で実験は行われているので品質について指導を行う必要がある。
損傷した倉で目立ったのは雨漏りで劣化した部分が損傷している。
雨漏りは早急に改善し土壁を補修しないと耐震性能を発揮できない。
軒高の高い酒蔵の土壁が崩落していた。
面積の大きい土壁の施工指針が必要。
実験による基礎データもないはずなので、研究機関による解析を期待したい。
間取りは続きまで開口部が多い作り。
大黒柱が無く、柱は太くと55寸程度。外部の窓、内部の襖など開口部は広く差し鴨居・垂れ壁にて骨組み(2階床組)を持たせている。
2階建て建築にて応力が掛かる1階に耐力壁など耐震要素が少なく地震時の変形が大きい。
(写真7.8)5寸の柱では変形に耐えられず折れている。
垂れ壁・差し鴨居が変形に対して十分聞いていて柱を拘束し掛かった応力により柱が曲げ破壊をしている。
(写真9)柱の断面が太ければ持った可能性がある。
倒壊による圧死がなかったのは曲げ破壊を受けても生存空間が残っていた事実である。倒壊は続く余震で起こったものが多い。
※4寸以下の柱であれば阪神大震災のように圧死が多かったものと思われる。
大変形をした木造建物を起こして直す経験をした業者が少ないためか、解体して更地になっている事例がほとんどだった。
土壁を用いた伝統的建物の場合、壊れた土壁を練り直し木組みを補修し復旧することで建築時相当の強度を確保できる。(注1)
木組みの補強としては柱の入れ替え・添え柱などがある。
変形をした建物は梁の損傷は少ない。
建て起こし補修すれば地盤など他の要因がなければ生活を普及できる。
問題は相当数の被害が出た地域で早急に対応できる職人を手配できるか。
全国規模で普及を支援する職人のネットワークが必要。
尚、輪島市内では塗り物を保管する土蔵を任意団体が中心になって復旧している活動が続いている。(注2)
土壁の施工講習及び地域にあった研究を行い土壁施工マニュアルの整備が必要。
また、損傷がなかった土蔵を調査して技術を検証し今後の対策を学ぶ必要がある。
伝統的建物の今後の対策としては、当面は石川県で作成した耐震改修指針(注3)に沿って進める。
伝統構法は本来損傷しても修復がしやすい工法であるから、技術検証をふまえ今後は文化財の修復や町並み整備のため長い目で整える建物はできる範囲で伝統構法が実践されることを望む。
文化の継承、技術の継承をおこない。
且つ、将来の被災被害を押さえる復興計画を望む。
注1:平成18年4月27日工学院大学建築学科宮澤研究室 実大実験
注2:建築修復支援活動本部 輪島市河井町4-66-1
注3:木造住宅の耐震診断・改修指針とその解説
平成9年1月 財団法人石川県建築住宅総合センター刊